三島の民話 ぜに長者

ぜに長者

三島町西隆寺のうら山のふもとに樹齢五百年もする高野槙が一本ある。下枝はこんもり繁って、ふくろうとむささびの丁度よいねぐらになっている。昼でも薄暗く、蓬魔が刻になると苦しげなうめき声で「オブサリテー」とわめく声がするもんだから誰も近付かなかった。もう何十年も前から、おぶさりてえ化け物が巣くっていたが、別に悪さはしなかった。間抜けで臆病太兵衛が岩倉山からの薪切りから帰って来るとき、丁度蓬魔が刻に槙の下を通る。ビクビクして「おぶさりてー出るなよ」一心にコンピラサマを頼んで通りかかると「おぶさりてー太兵衛おぶさりてー」「で…で…でやがった」足が大地に釘付になり、肝っ玉がでんぐり返ってのどにつかえた。もうどうにでもなれと捨て鉢にどなった。「お…おぶさりたかったらおぶされッ!」ザワザワ枝葉を鳴らしてドサッと音がした。おぶさりてえ化け物が太兵衛の背中におぶさった。足が土にめり込むほど重かった。ヨタヨタ背負って家の土間にほうり込んだら、何やらギャランギャランと変な鳴き声がした。ガックリ力が抜けてねむってしまった。やかましい小鳥の声で目をさましたら驚いた。朝日にかがやいて、土間はお金がいっぱい広がっている。太兵衛は長者になってお宮やお寺を建てたが、何処かに沢山お金を埋めたことになっている。しかし誰も探し当てた者はいない。

遠藤太禅・著「奥会津山里民話」より