三島の民話 ツララの嫁こ
ツララの嫁こ
昔むかし あるところに独り者の兄さまあったど。
うんと寒い朝だったどぉ。軒先を見たら何本もつららが下がっている。それを見て「あのように細くてきれいな姉さま、おれの嫁になってくれたらいいが…あのような嫁こほしいなぁ」と思ったどぉ。その晩寝ようしたら、「トントン トントン」戸をたたくものがある。「はて、今時分誰も来る人ねぇんだがなぁ」と思って「誰です?」と声をかけた。「わたしここの家に来ました」と言うんでたまげて「まず入らっせぇ」と言って家の中に入れたどぉ。朝思った事ホンになって兄さま大よろこびで嫁こにしたどぉ。
なんと優しい姉さまで朝早くおきて赤いタスキをかけ良く働いたどぉ。
あるとき兄さまいつものように稼ぎに行き仕事が早く片付いたので、おらの嫁っこ、湯サも入らないで稼いでいるから、湯サ入れてやろうと思って急いで帰ってきて湯を沸かして「湯に入らねぇか?」と言ったら「私は湯がきらいだ」と言って、なんぼしても入んねぇどぉ。「遠慮しねぇで入れ」と言って湯殿サやったどぉ。
風呂の戸を開ける音はしたがそれきり何の音もしなく、なんぼ待ってもあがって来ないから、心配になって行ってみたら嫁この姿がなくて、湯の中にいつも差していたクシとカンザシがポッカリ浮かんでいたどぉ。
ざっとむかしさけぇだ。
掲載協力 馬場幸江さん(大登)