三島の民話 盆花とり

盆花とり

むかし、和尚様が「小僧、小僧、盆花でも取ってこう」ちゅったど。「はーい」どって山奥さ入ったど。そうこうしてるうぢに、真っ暗になって困ってだど。そのとき山の向こうの方に灯りが見えっから、頼って行ったど。

「こんばんはー。泊めてくんつぇ」

「よれー、泊まれ泊まれ。これでも食え」

なんて言わっちゃがら、見たればおっかねぇ面してんだど。火さあたってだら

「俺木持ってくっから、俺の寝どこ見んでねぇぞ」

なんて言ったど。小僧は隙間見だら、頭の毛やら骸骨やらいっぺぇ山と積もってだど。あんまりおっかなぐなって逃げんべぇどしたら、鬼婆来たど。

「俺、便所さ行きでぇ」

「なに、ちょっこら待で」

腰さひもくっつけらっちぇ、

「ほら行ってこう」

逃げんべどしてっと、

「小僧小僧、まだがー」

「まーだです」

何回も言ってだら神様出てきて、便所の窓から逃がしてくっちゃど。そして小僧の代わりに「まーだです」と言ってくれだど。

「なげぇなー。そんなに待ってらんにぇ」

鬼婆来たら小僧いねぇべぇ。グエラグエラ怒っておっかけだど。

「小僧、待でー」ちゅう。「おっかねぇー」

どってとぶとぶとんで逃げだど。したら神様が「山んなれー」ドガーンと山出してくれらったど。鬼婆は山登ったり下ったりしておっかけだど。つかまりそうになっと神様が「川んなれー」ちゅう。そしたらザンブザンブ川んなった。小僧はデンデンデンデン逃げだど。鬼婆はなかなか川越えてくんよねぇ。そうこうしてるうぢに東の空明るくなってきたど。

鬼婆も「明るぐなったら人里こんな格好してどこまでも追っかけでるわけにもいぐまい。残念だぁ残念だぁ」どって戻っちまったど。

そうして小僧は明るくなったがら寺が分がって戻らっちゃど。和尚様は「どうした小僧。なんで一晩泊まったど。何があっただぁ」って聞いだど。「いやー、こういうわけでー、おっかながったー」と一部始終語ったれば、「そんな山奥さ行げど言った俺も悪がったが、おめぇも気をつけろよ。いやはやそれは命がけであったなぁ」と言わったど。

ざっとむかし、さげだ。

掲載協力者 故五十嵐ミヨノさん(西方)