三島の民話 かしゃ猫
かしゃ猫
昔、入間方の奥に山小屋があって、爺さまと婆さまと猫が仲良く暮らしていたど。その猫があんまりめげぇので、名前をタマとつけたど。
爺さまは夏はわらじを履いて、宮下に用足しに行ったど。帰りには婆さまとタマに土産を買ってくるので、楽しみに待ってたある日のこと、タマが婆さまに、
「毎日退屈だべがら、俺、浄瑠璃聞かせっから。このことは誰にも言うなよ。しゃべったら婆さまの命はねえがらな」
と口止めして、毎日唄って聞かせたど。
暑い暑い夏も過ぎ、涼しい秋もいつの間にか過ぎて、寒い冬になった。そして雪が降ってきた。そこで爺さまはゲンベイを履いて出掛けたど。なんとか浅岐までは行ったが、雪がひどくなって家に戻ることにしたど。
家の近くまで来て、やれやれと腰を伸ばしていたら、なんだか家の中から若い男の歌声がするので、二人だけなのに、それともお客様かと不思議に思って、バタバタとゲンベイの雪を落として戸を開けて、
「今けえったぁ」
と言うと、いつもより早く来たので二人はびっくりしたようだが、家の中見ても誰も来てないので、爺さまは寝てしまったど。
明日になって、きのうのこと聞いても婆さまはしゃべらないので、大けんかになり、仕方なく婆さまはタマのことしゃべり出したら、あんなにめごがったタマが、目を光らせ歯をむき出して暴れ回って、婆さまの首に飛びつき、のどを噛み切って、窓から飛び出して大辺山に登って、
「かしゃ猫」になったという話だ。
今から75年前に、年寄婆さまに、
「今日はおっかねぇ昔聞かせっから、おとなしく聞いてんだぞ」
と言われた。みんなたまげたが、大辺山には「かしゃ猫」が今でもいるからと言った。
はい、「かしゃ猫」の話、おしまい。
掲載協力者 久保田テル子さん(間方)