三島の民話 ホトトギス昔
ホトトギス昔
昔々あるところで、ひどい飢饉が続いてなぁ。大勢の人が餓死したそうだなぁ。
ある家では、ふた親が死んでしまって、男の兄弟が生き残っていてあったそうだなぁ。
せな(兄)の方は体が弱くて寝ていてあったそうだ。舎弟の方は丈夫で毎日のように山で稼いで、山芋掘ってきては二人して食っていたそうだなぁ。
せなにはうまいのくれて、舎弟はガリガリの「あっくび」んどこ食っていたそうだなぁ。せなはあんまり利口でなかっただべ、感謝するどころか毎日食うどきんなっと逆こいて、意地の悪いこと言って舎弟を困らせておったんだなぁ。
「俺にはこんなうまいの食わせんだがぁ、にしはまだまだうまいどこ、いっぺぇ食ってんだべぇ」
なんて悪い心を起こしてなぁ、舎弟の腹ん中見たくて見たくて、憎くて憎くて、ある晩、舎弟が寝静まっと腹を裂いて見たそうだなぁ。
ところが、せなが思っていたのとはまるっきり反対で、舎弟の喉も腹も「あっくび」ばっかりだったそうだなぁ。それで利口ではなかったせなではあったが、ハッと気がついで、
「舎弟は自分ではうまくないもの食って、俺には芋のうまいどこくれたんだなぁ、すまなかった、すまなかった」
と泣き泣き、亡きがらにすがりついて泣いて泣いて、とうとう死んでしまったそうだなぁ。
その後、せなは舎弟を殺したからなぁ、亡霊となってしまって、ホトトギスの鳥になってしまったそうだなぁ。夜も昼も泣き通しで、八千八声鳴かないと何も食うことできなくなってなぁ、切なそうに鳴くだどぉ。
ホウチョウカケタカ
オトウトコイシヤ
と鳴くんだど。ホトトギスになったせなは、限りなく鳴かなくてはなんねから、口から血を吐き吐き鳴いていっから、口ん中が真っ赤になっているんだなぁ。
そうしてホトトギスは、命の限り八千八声、毎晩毎晩鳴かなくてはなんねから、自分の卵を自分の巣で抱いて子どもをかえすことができなくて、よその鳥の巣に卵を産み落として育ててもらうんだそうだぁ。
また、ホトトギスは自然薯を思い出して、山芋の芽が出る季節になっと、この辺りに渡って来るんだとよ。
ざっと昔、さけた。
元話 故長谷川民夫さん(川井)