三島の民話 菖蒲湯の話
菖蒲湯の話
むがぁし昔、ある山ん中で親子が暮らしていだど。娘が機織りするようになって、ほうして機織りしているうちに、山がら蛇が這ってきてなぁ。その娘があんまりきれいだがらどって、男の蛇が良い男に化けてきてなぁ、その娘と仲良くなっただど。
ある時、近所のおなごが娘の家さ来て、
「今日はなんだって静かだぁ。いっつも機織りしてんのに…」
ど思って中のぞっこいでみっと、蛇が娘さ巻きづいて、グルグル巻きしてんだど。おなごの人は何か良い方法はねぇがど思ってっと、ちょうど襟元さ針さしてあったがら、蛇の目玉めがげで刺してやったど。すっと、蛇も大変だど思って、まぁ逃げてったぁ。草藪ん中さ這っていったぁ。追っかけだら、まぁほかの蛇もいで、
「何だぁ、そのような血だらげんなって」
って言ったど。したらばその蛇が
「いや何ぼ血だらげんなっても、俺は人間に子ひっつげて来たがら、死んだって悔いはねえ」
つってんだど。
いやいやこれは大変だ。娘が蛇の子を宿してるって、追っかけたおなごの人が心配して、何とかしんなんねぇど物知りに相談したれば、
「あぁ、そったの心配しっごどね。五月節句の菖蒲湯さ入っと、人間の子のほかは落ぢっちまぁつうがら、心配しゃんな」
どって言わっちゃど。
そんじぇ、五月来んのまっちぇいで、腹もふくれできたが、節句になったがら菖蒲とヨモギ摘んできて、風呂沸がして、それいっぺぇ湯さいっちぇ入ったれば、蛇の子がゾロゾロゾロゾロ落ぢだんだど。
いやいやこれは良がったぁど、人の口がら口さ伝わり、五月節句にはおなごの薬になるっつうごどがら、今でも菖蒲湯たでで入るようになっただど。
また、おなごのたしなみとしてなぁ、いつでも縫い針を襟元にさしておぐもんだって言わっちぇんのなぁ。
ざっと昔、さかえました。
掲載協力者 杉本ミツイさん(桧原)