三島の民話 姥皮(おっぱの皮)
姥皮(おっぱの皮)
昔あったど。
あるどごろに、田舎にしてはとでも美人で利口な娘がいだっけど。
「田舎ばっかりにいねぇで、都さ出て修業してみでぇがら…」
って、親の許しもらって一人旅に出たんだど。ほうで、その途中である人が、
「おまえのような美人は、この先の山賊にとっつかまえらっちぇ、ひでぇ目にあわさっちまぁがら、俺の姥皮くれっから、かぶっていげ。そうすっと、きたねぇ婆だって目もくんにぇがらな」
って親切に教えてくっちぇ、大切な姥皮かぶせてくれただど。ほうして、どんどん一人旅して行ぐど、やっぱ山賊出で、
「これっ、ん婆っ、きたねぇがらこっち通んねぇで向こういげぇ」
なんて言わっち、何事もなく都さ出で、ある家さ行っただど。
「田舎もんだげんじょ、修業したくて来ましたがら奉公させでください」
って頼むど、
「ああちょうどよがった。今まで女中不足してだぁ。いでくろ、いでくろ」
どって早速おいでもらうごどになっただど。
娘は昼間は姥皮着て奉公する。夜んなっと、みんな寝たあと風呂に入って姥皮脱いで、きれいな娘の姿で勉強どが裁縫してだど。したらば、たいした美人が書物読みしったべぇ。たまげだ息子。
「あれ、きたねぇ年寄り婆さんだど思っていだが、あんなきれいな若い女だぁ」
って熱にうかさっちぇ病気のようになってなぁ。床さついっちまったど。
大事な跡取り息子のごどだがら、医者だの祈祷師だのと大騒ぎんなったど。
「これは病気ではねぇぞ。恋のわずらいっつう病気みでぇなもんだなぁ」
なんて言われんべぇし、祈祷師は、
「相手はこの屋敷にいんぞ」
つわれんべぇし、おなご全部集めで息子に聞いだが、どれでもねぇだど。
「そんじゃ真綿を引いて、その上歩がしぇろ。足の裏さ真綿のひっつがねぇのが坊ちゃんの相手だ」
つう占いが出で、一人ずつ歩かせだど。全部ひっついでしまったど。
「いま一人おなごがいるはずだ」
つうごんで、きたねぇ奉公女を座敷さ呼んで歩かせだら、真綿がひっつがねがっただど。そんじぇ、姥皮脱がせだらとでも美しい娘で、みんなたまげっちまって、
「ここの嫁になってくろ」
つうごどになって、立派な若奥様になったど。
いくら田舎者でも機転きがして努力しっちゅうど、いいごどあるっちゅうごどだべなぁ。
ざっと昔、さかえました。
話者 故五十嵐ミヨノさん(西方)