三島の民話 琵琶法師と大蛇
琵琶法師と大蛇
ざっと昔、あったど。
目の不自由な琵琶法師が、この山越えて行ったじゅうだ。目が不自由だが、山越えしるは、とでも難儀でなぁ。何遍も休み休み行ったど。
「さてさて、目が見えないがら、昼でも夜でもたいして変わりなくしてんが、まず足さひっからまるこの蔓には閉口しるわい」
なんて独り言しゃべって、休まっただど。そこは、琵琶法師には見えねぇが、堤ぐれぇの沼の端であったど。
「さぁでさで。良い風も吹くなぁ。どら、一服しべぇ」
汗をふいで、竹筒の水を、キューッと飲んで、背中の琵琶おろすと、弾きはだったど。
「ビロン~ビロン~ビロビロビロ~ン」
夜風に乗って、林ん中通って、沼の波に届いだど。
「ビィヨン、ビィヨン、ビンビンビンビン~」
したらば、
「良い音聞かせてもらった。何だって気持ち良い音だ」
耳元で声したじゅうだ。
「誰でらったよ。俺の琵琶ほめでもらって心良いごど」
ちゅったら、
「わたしは、この沼の大蛇でやす。沼が狭くなって、どうも寝心地が悪くて、寝付かれねぇでいたのっし。ありがどうなっし。とでも良い琵琶の音であった。お礼に、お前の命を助けてやりたい」
「何のごどだよ、大蛇殿。大蛇殿は、この沼に住めないほど、づないのがよ」
「あい、この下の村に水を落としてせき止めて、この沼の何倍もの沼にして暮らしたい」
琵琶法師の耳元に大蛇がしゃべるちゅうだ。
「このわたしの話したごどを、下の村さ泊まっても、しゃべっちゃなんねぇぞ」
「あい…あい、分かった」
琵琶法師は手探りで琵琶を背中に背負うと、
「大蛇殿、そんじゃら…」
「きっとだぞ。ぜってぇ語らねぇでくんつぇよ。ありがどさま」
大蛇に別れを言って、杖つきつき山下りだど。下りながら考えだど。
「この俺一人助かっても、下の村の人だぢみんな死んじまう。あってはなんねぇごんだ」
ゆっくりゆっくり下の村さ着くど、親方様の家さ行って、それ、大蛇に琵琶の音色聞かせで喜ばれで、とんだ話聞いできたごど、みんなしゃべってなぁ。村の人の命助けただど。
琵琶法師はどうなったが。村人は逃げで助がったが、村が一面でっかい沼になって、あの大蛇がゆうゆうと泳いでる沼の端に、うつぶせんなって死んでだど。
今でも風に乗って、ビロ~ン、ビロ~ンビロンビロン…聞けでくるわせ。
ざっと昔、栄え申した。
元話 故小柴モトさん(西方)
再話 五十嵐七重さん(西方)