三島の民話 古寺のネズミ退治
古寺のネズミ退治
あったど。山ん中、十戸ばぁりの村の寺さ、貧乏してだ和尚様ど猫いだど。その寺には古いネズミ、まぁ百年もたったネズミがいで、村さ出ては悪いごどしてしょうがねぇだど。ウサギやニワトリ、子どもさもかかって村のてぇは退治しんべどしても、昼間は六角堂さもいねぇ。よぐよぐ困ってあったど。そんじぇ、和尚様が猫と語ったど。
「猫、猫、にしはネズミ捕り商売な訳だが、あのネズミ、なんとか退治できねぇが」
「いや、実は和尚様」
どって、猫は人間の言葉でしゃべったど。
「俺一人ではかなわねぇ。隣の国に、俺のごく親しい仲間がいっから、そいづ頼んできて必ず退治しっからな。今晩行って連れてくる。和尚様は小豆飯一升どニシン一束買っておいでくろ」
ちゅったのや。
「よぉしよし、そんなごど、わげねぇごんだ」
和尚様は小豆飯炊いて、ニシン一束買ってきて、まっちぇだ。ところが夜中んなったら、寺の前でドシーン、ドシーン音した。見たごどねぇ猫だど。犬ほどもでっけぇ猫二つで来たど。
「なんだ、にしゃだれは」
「和尚様、本当はこの体が俺の体だ。和尚様の前ではちっちゃぐなってだが、この仲間も俺と同じぐれぇの力あんだがら。これから六角堂さ行ぐがら、ご飯炊いで」
「いや炊いでまっちぇだ。これ食ってげ」
そんじぇ、小豆飯一升どニシン一束食べてしまうど、六角堂さ入った。ところが、ドンドンガラガラたいした騒ぎんなってしまったじゅうだなぁ。和尚様もふるえでだわ。
せが朝方んなったら、こっそりになって音しねぇ。猫がネズミにやらっちまったがしんにぇ。大変だ。村のてぇ集めでなんとかしんなんねぇ。早鐘突いて集めたど。
「和尚様、なんだど」
「実はこれこれこういうわげで、猫二つ入ってネズミ退治したわけだが、ひとつも音沙汰ねぇだ。猫やらっちゃがもしんにぇ。もしネズミがいだら、ただっ殺すように、皆でかがるつもりで入ってくろ」
なんつう訳で、扉開いで見だらば、猫が二つ、フーフー弱ってしまって、その脇さ猫二つ集めたほどのネズミが死んでだど。猫にのど食いやぶらっちぇだ。猫は、はぁへとへとんなってだど。
それがら、いやいや村のてぇ大喜びで、猫を大事にしたべ、確かに。魚買ってくっちゃり、薬つけてくっちゃりして、丈夫んなって仲間の猫は帰っていっただど。それがらは、村もネズミのでっけぇがなに襲わんにゃくて穏やかな村になったど。
ざぁっと昔、栄えました。
元話 故片山長平さん(小和瀬)
文章 五十嵐七重さん(西方)