三島の民話 笠地蔵
笠地蔵
むかしむかし、あるところに爺さんと婆さんが笠を作って毎日暮らしておったそうだ。
あるとき、
「婆さんや、笠もだいぶたまったがら、売りさ行ってこべぇ」
ちゅったど。
「おお、おお、そうしてくんつぁれ。気つけて行ってきてくんつぇよ」
婆さん、家の角まで見送ったど。
「笠やぁーれ笠。笠やぁーれ笠」
爺さん、しゃけんでじなっても売れねぇ。
「やれやれ、大ごとだ。なんでだべ。一つも売れねぇ」
爺さんは、少しも売れないが、家さ戻ることにしたど。
ポツポツ、ポツポツ、雨があたってきた。
「やれやれ、雨じゃ。今日はとんな日だなぁ」
ぼそぼそ言いながら、村はずれまで来たら、地蔵様が頭から濡れていさったど。
「やれやれ、地蔵様、寒かろう」
と売れなかった笠全部、地蔵様にかぶせて、
「はぁー、これでよがんべなぁ、地蔵様よ。まんにゃあせでなっし」
なんちゅって、
「婆さんや、ただ今帰ったよ。今日は笠が売れなかったがら、地蔵様さみんなかぶせてきたよ」
ちゅったら、婆さんも、
「おお、それは良かった。雨降りになったべし、雪になるに相違ねぇわぁ。地蔵様、喜んでらったべなぁ。さてさて、明日は年取りだが、おらたちは芋でも食って年取りしんべなぁ」
「なぁやれ、それがよがんべぇ」
二人は仲良く寝たどなぁ。
したらば、夜中の事、
じじの家は、どこだんべぇ。
ばばの家は、どこだんべぇ。
大勢の音がしたがら、爺さんと婆さんは、おっかなくてなぁ。ひとすくみになって寝ていだど。
朝んなって、そろーっと戸を開けたら、いやーたまげた、たまげた。
餅だべぇ、魚だべぇ、大判小判がいっぱい入りこんで、爺さんと婆さんはいい年を取り、いい正月をしたそうだ。
人様には、いいことをすれば、自分にもいいことが返ってくるちゅうことだ。
ざっとむかし、栄え申した。
元話 二瓶アツ子さん(大谷)
文章 五十嵐七重さん(西方)