三島の民話 鬼むかし
鬼むかし
昔むがぁし、八人娘もった爺さまやったど。とでも日照り続きで、爺さまの山田はとでも水かかんねぇで、ほとほと困ってだど。
「水かかんねぇど、米んなんねぇ。おらの田さ水かけでくれる奴いだら、娘、好きながなくれんだがなぁ」
なんて一人口しゃべったど。したらば、雷様出てきて、たいした雨降らせで、爺さま大喜びしたど。したらば雷様、爺さまさ、
「おい、今何ちゅった。おめぇ、なんて言った」「いや、何とも言わねぇ」「言わなぐねぇ、言った」「何とも言わねぇが、この田さ水かけでくれっと、八人いる娘のうちどれでもくれるって言った」「ほだべぇ。雨降らせたの俺だぁ。娘くろよ」
って言ったど。さぁ、こんだぁ、一人くれんなんねぇ訳だが、娘たちさ話できながったど。辛苦面して寝でだら、一番娘来て、
「爺さま、水でも飲まっしぇ」
「飲みだぐも食いだぐもねぇ」「食わねぇど死んじまぁがら、食わっしぇ」「何にもいらねぇがら、鬼のどごさ嫁に行ってくれ」「あぁー嫌だ。鬼のどごさ嫁に行ってられっか」
さぁ爺さま困ってだら、二番目のが来て、
「飲むが食うがしねぇが」っちゅうがら、「飲みも食いもしねぇ。姉にははねつけられだげんども、にし、嫁に行ってくれ」「おぉーやだやだ。鬼のどごさ行ってられっか」
はねつけらっちゃど。こんだぁ三番目、四番目・・・七人みんなはねつけだど。あと一人しかいねぇ。困りに困っていだら、八番娘来たど。
「姉だぢみんなに断らっちゃだが、にし、何とか鬼の嫁に行ってくれ」ちゅったど。「行ぐ行ぐ。代わりに芥子の種三升買ってくんつぇ」
芥子の種三升は大変だ。爺さま本気になって用意したど。したらば鬼が、かご一人でかついで、むげぇさ来たど。娘は爺さまさ言ったど。
「この芥子の花咲いだら、花たどりたどり来てくんつぇ。俺は来らんにぇがもしんにぇがら来てくんつぇなぁ」って鬼んどごさ行ったど。
さて何年もたって、今年は芥子の花がずーっと道のように咲いたど。爺さまは芥子の花たよりにずーっと行ったら、鬼の屋敷さ着いたど。鬼のこめらが娘どいだっけど、
「爺さまよぐ来てくっちゃな。いま鬼殿戻ってくっから」ちゅってだら、鬼来たど。爺さまと娘は下さ寝で、鬼と鬼の息子は二階さ寝だど。そうしっと二階で鬼の親子しゃべってんだど。
「あぁー爺さま食いだい。食いだいなぁ」。すっと鬼の子が「おやじ、馬鹿なまねしんなよ」ちゅうど、「いや、食いでぇ」。二階の梯子段どごで口がら火吹いだっけど。「おやじ、馬鹿なまねしねぇでな。俺の爺さまだぞ」どって寝たふうだど。
さて朝んなっと娘が鬼さ言ったど。
「俺は一回も家さ帰ってねぇ。姉だぢさも会いでぇ」「あぁ行ってこぉ。春の節句にむげぇさ行ぐ」
そんじぇ鬼の息子ど三人で帰ったど。んじゃげんじょ、節句まであっという間に過ぎたど。
「あぁ嫌だ。鬼殿は節句待ってらんにぇで前の日には来んべなぁ」って娘泣いだど。すっと鬼の子が言ったど。
「母ちゃん、爺さま、俺は顔も体も半分は鬼だ。母ちゃんの寝でる顔見っと食いたいと思うようになった。いづがっしゃ全部鬼になんだがら、父ちゃんむげぇに来たらば、あっちっち炒り豆こしゃって、俺だぢさぶっつげでくんつぇ。俺だぢ山さ逃げでぐ」
そう言っただど。そんじぇな、節句の前の晩、炒り豆いっぺこしゃって待ってだど。
「おーい、ドンドンドン」。鬼来たべぇ。鬼の子は「それぇー母ちゃん」ちゅうど家ん前さ飛び出す。爺さまと娘は炒り豆「鬼はーそとぉー、バーラバラバラ、鬼はーそとぉー、バーラバラバラ」まく。「アッチチチ。いでぇいでぇ」。鬼の親子おっぱらったど。
節分の豆まくのは、こんどぎがら始まったそうだ。
ざっと昔、栄えました。
元話 故五十嵐徳次さん(西方)
再話 五十嵐七重さん(西方)