三島の民話 諏訪一族と殿様
諏訪一族と殿様
むかしむかし、この地方にえらーい殿様やったそうだぁ。村の達ぇのごどいっつも考えでくっちぇ、作の悪い年には殿様も粗末ながな食ってくんつぁって、見回りつぅど、
「さすけねぇが?みな身体は?年寄りは?」つって、なにかど気遣いしてくれでやったど。んじゃがら、皆々に慕われでらったそうだが、その中で特に忠実な家来どして諏訪一族があったそうだ。
主従共に賢者であったがら、村々は穏やかで平和だっけど。
そんな秋の日であったど。
いっつものように殿様は家来衆ど村サこらったぁ。山々は紅く染まり稲の刈り取りににぎやかであった。
「精が出てありがたいのぉ~腰をのばしながら頼むぞ」なんて優しい言葉かげらってなぁ、パッカパッカ来られた。村の家近くサ来たら、あっつこっつに柿の実が真っ赤に熟してだ。
「おおーんまそうじゃなーー」ったど思ったら、家来が止めるのも聞かずスルスルーーッと柿の木サのぼられたど。
「と、との!柿の木はあぶのうござります」
「いやぁ~どれもこれもうまそうじゃ~」
「と、との!動いてはなりませぬ」
「この実が、実に熟しているわい!」つうど殿様は手をぐーんのばして柿をもぐどガブガブ食われたど。
「んまい!実にんまい!ほれ、お前達も」ってもいだ柿を家来に落としながら、
「おおーあそこの柿の枝は光っておるぞ」つうど、カチッカチッ反射する光りにクラクラ~ったが、
「おおーまぶしいな。そんじぇもこの柿は見事よ」
なんつって、ゆっくりゆっくり足をはこんだその時じゃ、「バリバリーガシャーン」あと一歩つうどごで枝が折れ、殿様は真っ逆さまに落ちてしまわれだど。
「とのーーっ」家来衆かげよっても、間んにゃわねぇ
~柿の木は昔がら( もろいことで有名な柿の木) だものなぁ~。
それによ、まっと悪いごどに下はトウモロコシ畑で、茎を刈ったぎった後だったがら、殿様の両方の目がつぶれっちまっただど。
いっさんの出来事に、家来達も村の達ぇもみなみな悲しんでよぉ、諏訪一族は、柿とトウモロコシを作る事をやめだんだど。
それがらこっち、今でも、浅岐の諏訪家では···柿もトウモロコシも作んねど。
ざっと むかし あったど
元話 昭和五十四年浅岐での談話から
再話 五十嵐 七重さん(西方)